ながれぼし











ながれぼし

「…大分マシになったな」
 大災害前の遺産、ホバークラフトの上で、ヴェルハルトは呟いた。
 つい先ほどまで大荒れになっていた海は嘘のように静まっており、今彼が立っている甲板は雨で濡れている。
 空を見れば星が瞬いている。それは、彼がいた山奥でも見れないような数だ。青、赤、黄色に、さまざまに輝いている。
 しかし彼はそれを長く見る事は無く、また下をむいた。顔色が良くない。
 頭を抱えて、ため息をつく。彼はもともと、極度の船酔い体質なのだ。
 もちろん、そんな事を知る由はこれまでに一度も無かった。
 大災害の後、ほぼ全ての船が沈んでしまったし、何より乗る必要が皆無。
 他の国に赴く必要など無かった。相手は、皆自分から自分に向かってきた。
 彼は二三度咳き込むと、もう一度、空を仰ぐ。
 昼には空に無かった星が何故夜になると現れるのか、彼には理解しがたいものがある。
 太陽の光が強すぎるから――彼はそんな理由を呑みこむような性分ではなかったし、別に知らなくても死ぬわけじゃない。
 つまり、少し考えればどうでもいいことだった。
 と、そのとき。
「ん?」
 さっ、と、星が流れ、消えた。
「シューティングスターか」
「流星ね」
 二つの声が重なる。ヴェルハルトは驚いて声がしたほうを見た。
 明るい茶色の髪をポニーテールにくくりあげた少女が、今自分がしていたように空を見上げている。
 ヴェルハルトは一瞬自分の目を疑い――恐る恐る声をかけた。
「マーシア?」
「あら、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら?」
 マーシアは柔らかく微笑む。
「夕飯ができたから呼びに来たんだけど」
「…そうか」
 ヴェルハルトは目を伏せた。
「食欲が無い」
「そう…具合でも悪いの?」
 いいながら、マーシアはヴェルハルトの隣に移る。
「そんなところだ」
 そっけなく返すと、ヴェルハルトはもう一度、空を見上げた。
「きれいね」
「…そうだな」
 隣で一緒に空を見上げていたマーシアは、ふと何かを思い出したようにヴェルハルトの方を向いた。
「ねえ」
「なんだ」
 気分が悪いせいか、怒ったように返すヴェルハルトに怯む事も無く、マーシアは続ける。
「なにかお願い事した?」
 ヴェルハルトは視線をマーシアに移した。その目は困惑している。
「願い事?」
「なにもお願いしてないの?」
 小首を傾げて聞くマーシアに、ヴェルハルトは何と返していいか分からなくなる。
 とにかく、自分の思ってる事を言うしかなかった。
「何故…何に、願い事をする必要があるんだ?」
「え…」
 今度はマーシアが眉をひそめた。
「だって、流星って願い事をするものでしょう」
「流星…シューティングスターか」
 ヴェルハルトはやはり困惑する。
「あ、そっか」
 マーシアが笑うのを見て、ヴェルハルトが話しかける。
「どうした」
「あのね、ジハータでは流星…ええと、シューティングスターがながれたときに願い事をすると、その願いがかなうと言われてるの」
 人間独特の学問好きな性格が強いせいか、マーシアは新しい事が分かったことに喜んでいるようだ。
「パルテにはその習慣が無いのね」
「…なるほどな」
 ヴェルハルトも納得がいったらしく、軽く微笑んだ。
「しかし、ずいぶん都合の良い話だ」
「え?」
「星に願うだけで、願いがかなうなど」
 ヴェルハルトは首を振る。
「そうかしら」  マーシアは心外だったのか、声を曇らせた。
「そうだろう。もしそれで願いがかなうなら、俺は―――」
 言いかけて、ヴェルハルトは口をつぐんだ。ぐっとこらえるようにして、拳を握る。
 マーシアは心配そうに彼の顔をのぞき込む。
 そのことに気付き、彼は苦笑いをした。
「すまん」
 そのとき。
 一斉に、星が降ってきた。いや、そう見えた。
 幾百、幾千の星が、一気に流れ出したのだ。星屑のシャワーが、二人の上に降り注ぐ。
「すごい!」
 マーシアが思わず歓声を上げる
「流星群ね」
「………」
 ヴェルハルトは真上を見上げ、緩んだ拳を握りなおし、天に掲げた。
「頼む」
 ゆっくりと、言う。
「アカデミーを討たせてくれ」
 それを見て、マーシアも天に手を掲げる
 星は流れていく。彼の、彼女の、願いを乗せて。
 聖櫃を持ち、ラグナークへ向かう夜―――


おしまい

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やはり何も無かったら悲しいなぁと思いつつ書いてみた一品。
ぜんっぜんラブラブじゃないです(笑)
って事でやはり皆さんから募るしかないっす。お願いしますです、ハイ。





モドル















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